ずいぶん前に会社の入社試験で「仕事について」というテーマを与えられ作文を書かされたことがある。通俗的なことを書いても面白くないので、マズローの欲求5段階説をベースに、それまでぼんやり考えていた自分なりの仕事の分類を書いてみることにした。
その時の考え方がいまだに自分なりにしっくりくるので改めて書いてみる。
マズローとはアメリカの心理学者で、欲求を低次から高次へ5つに分け「欲求5段階説」として理論化した人物である。マーケティングなどでよく出てくる学説なのでご存知の方も多いのではないだろうか。よく間違われやすいのが、高次の欲求を獲得したからと言って低次の欲求を喪失したわけではない。低次から高次へというベクトルで語られるので誤解されやすいと思う。誰もがこれらの欲求を万遍なく持っていて、その度合いで見るようなものである。
マズローの欲求5段階説
① | 生理的欲求 | 食事・睡眠・排泄など生命を維持するための本能的・根源的な欲求です。 |
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② | 安全欲求 | 生理的欲求が充足されると、次に安全・安心な暮らしを求めたくなります。雨風をしのぐ家・健康などを手に入れたくなります。 |
③ | 社会的欲求 | 安全が保障されると次に孤独感から逃れるために仲間が欲しくなり、集団に属したいという欲求が芽生えます。 |
④ | 尊厳欲求 | 次に他者から認められたい、尊敬されたいという欲求が芽生えます。この欲求が妨害されると、劣等感や無力感などの感情が生じます。 |
⑤ | 自己実現欲求 | 自分の能力を最大限まで発揮し、あるべき自分になりたいという欲求です。すべての行動の動機が、この欲求に帰結されるようになります。 |
欲求とはつまり需要であり、需要と仕事は密接な関係にあるように思う。
マーケティングではこの欲求5段階説をさまざまな職業の分類とともに購買行動の分析に応用されている。
私はさらにひねりを加え仕事に対する主観的な意識の変移として考えてみた。
それが下記の分類である。
① | 食べていくための仕事 | 糊口をしのぐための仕事。金銭の多寡を重視する。 |
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② | 安定した仕事 | 景気に左右されない保証された仕事。 |
③ | 社会的に重要な仕事 | あまり脚光を浴びないが多くの人に影響を与える仕事。裏方のような仕事。 |
④ | 名誉な仕事 | 他者評価を重視する仕事。 |
⑤ | 自己実現としての仕事 | このために生を受けたと言える仕事。多くの気づきを受け、もはや金銭に頓着しなくなる。 |
ただこれは前述のように仕事に対する意識の問題であって、職業の分類ではない。「職業に貴賎なし」という言葉があるが、心構え次第であらゆる仕事が高次の仕事になりうる可能性を秘めていると思う。
この尺度を持って周りを見渡してみると、世の中がドラマチックで面白いものに見えてくる。
例えば生活のためにようやくありついた仕事が、いつの間にか人から頼りにされ、その仕事が生きがいに転じた人もいるだろう。退屈な仕事に新しい価値を見出し、生まれ変わるような人もいる。黒澤明の「生きる」はまさにそのような人を描いた映画である。
あの大震災の時、新幹線が1ヶ月足らずで全線開通し、ガスや水道などのライフラインが予想外の速さで復旧していっていった裏には、メディアに報道されていない人々の意識の高い仕事のおかげである。
そのことを考えると、自分の目の前の仕事を誠実に取り組むことが、回り回って少しでも世の中に貢献していると思う。
マズローが最後に提唱した自己実現は、すべての行動の動機が、この欲求に帰結されるものであるという。まだその仕事を得ていない人は、内なる自分に導かれ、いつか適切な時期に巡り合うのかもしれない。