ようやく残暑も和らぎ、秋の気配を感じるようになった休日の午後のことである。
私は公園でなかなか来ない友人と待ち合わせていた。
明るい日差しの中、子どもたちが歓声を上げながら遊び回っている。
その無邪気な声が私の心をほのかに明るくしてくれた。
建物の影になったところで十数羽の鳩が何かエサを探して地面を突っついている。
そこへ4、5歳ぐらいの男の子が駆け寄ってきた。
男の子は遠巻きにしばらく鳩を見ていたが、ふと気づいたように足元の小石を拾って群れの中へ投げ入れた。
鳩は羽をばたつかせ、男の子はそれを見て面白がる。
また小石を投げる。鳩は逃げ惑い、男の子は笑う。
無邪気な児戯とはいえ、なんともいたたまれない気持ちになってきた。
そのうち気づいた母親が叱りつけ、その子の手を手繰り寄せ引っ張って行った。
入れ替わりに別の男の子が鳩のところに駆け寄ってきた。
その子も興味深げに鳩を見つめていたが、急にちょこんとしゃがみこんでしまった。
顔の様相からダウン症の子だとすぐにわかった。
その表情は柔らかく、前の子と違って何もしない。
ただ鳩が地面をついばむしぐさを見ているのみである。
鳩は恐れる様子もなく、むしろ子どもの存在を感じていないかのようにその足元の砂をかき分けている。
鳩と子どもには不思議と自然な一体感があった。
何か大切な秘密に触れたような感覚があった。
実はこの光景は20年以上前に見たもので、いまだに忘れることができない。
十牛図の中に「人牛倶忘」という何も描かれてない白い図があるが、いつの間にかそれと重ね合わせて私の心の中の大事な一風景になっている。